オウム事件真相究明の会 Q&A

オウム事件真相究明の会 Q&A

最終更新日:2018年6月29日 12:30

目次

Q1.「真相究明」と言うが、オウム事件は、裁判を通じてすでに多くの事実が明らかになっているのではないか?

本会が「明らかになっていない」と主張している重要なものとして、オウム真理教が引き起こした数々の事件の動機を挙げることができます。首謀者とされている麻原彰晃死刑確定者(以下、麻原)は、一審の早い段階から、拘禁反応による精神の異常を来したと考えられ、1997年のはじめには弁護人との意思疎通も取れなくなり、法廷にオムツをつけて連れてこられるようにもなりました。にもかかわらず、裁判所は、何ら検査や治療をすることなく、判決を確定させました。そのため、地下鉄サリン事件、松本サリン事件、坂本弁護士一家殺害事件といった重大事件の肝心の動機が明らかになっていません。

Q2.地下鉄サリン事件の動機は、目前に迫った強制捜査を回避するためということが、裁判で明らかになっているのではないか?

一審で井上嘉浩死刑確定者(以下、井上)は、リムジン車中で、目の前に迫った強制捜査の矛先を変えるために地下鉄にサリンを撒くことが決まったと証言し、判決は井上証言を麻原彰晃の有罪(共謀共同正犯)認定の根拠としています。
しかし、井上死刑確定者は、その後の法廷でこの証言を何度も否定しています。さらに2015年2月、高橋克也の裁判に証人として出廷した井上は、「地下鉄サリン事件は『宗教戦争が起こる』とする麻原の予言を成就させるために事件を起こしたと思った」と証言しています。「起こした」の主語が曖昧ですが、「思った」という述語の主語が井上なら、「目の前に迫った強制捜査の矛先を変えるために地下鉄にサリンを撒くことが決まったと」との証言を自ら否定しています。
さらに2012年5月に放送されたNHKスペシャル「オウム真理教 17年目の真実」「オウムVS警察 知られざる攻防」では、「実はリムジンでは、たとえサリンで攻めても強制捜査は避けられないという点で終わったのです」と番組ディレクター宛に書いた手紙が紹介されています。これが事実であれば、判決が認定した地下鉄サリン事件の動機や理由が、根底から崩れ去る可能性があります。
オウムの事件は戦後最大級の犯罪と言われています。その最大規模の事件である地下鉄サリン事件が、なぜ、誰が、何を目的に、起こしたのか、すべてが曖昧になっています。こんな状況で事件を終わらせてはいけない、と私たちは考えます。

Q3.麻原を裁く裁判は、すでに事実を解明するために相当の時間と経費を費やしているのではないか?

先ほども述べたとおり、麻原は一審の早い段階から精神に異常を来しており、控訴審においては、資料「麻原彰晃こと松本智津夫の精神状態に関する意見書|岡崎伸郎医師」や、「面会した医師の意見書の要点」に載せているように、5名の精神科医が麻原のことを昏迷状態(外的刺激に反応できない、昏睡状態の一歩手前の状態)だと診断しています。しかしこれまで、病気を治療する試みはいっさい行われていません。当会は、事実を解明するための努力がなされていないと考えています。
なお、付け加えるなら、精神異常の者には裁判を受ける能力(訴訟能力)はなく、公判を停止することが刑事訴訟法で定められており、裁判所は検察官や弁護人から申し出がなくても訴訟能力の有無については判断しなければならないところ、その検討すらしていません。麻原裁判では、被告人を死刑にするという大前提のもと、法が定める適正手続に違反したことが異常な頻度でなされています。

Q4.控訴審で公判が開かれずに一審での死刑判決が確定したのは、弁護人が提出すべき控訴趣意書を提出しなかったためではないか?

控訴審弁護人は麻原氏に訴訟能力がないから控訴趣意書を書けないと、当初から主張していました。そして、東京高裁が異例の形で「精神鑑定」を行うことになりました(正確には法の規定に則っていないので、精神鑑定ではありません)。
訴訟能力に関する西山医師の鑑定が2006年2月20日に出され、弁護人は、裁判所の指示に従い3月15日にそれに対する反論の意見書の提出を行いました。
3月21日および22日の2日間にわたって、弁護人は裁判所に同月28日に控訴趣意書を提出する旨を伝え、訴訟能力について裁判所が判断するまでに控訴趣意書が出されれば期限内に出されたものとして扱う、約束は守ると、須田賢裁判長は弁護人に告げていました。
(このやりとりについては記録が残されています)
その後も、訴訟能力についての裁判所の判断が行われることありませんでした。しかし、控訴趣意書提出の約束日である3月28日の1日前、東京高裁は弁護人に事前に連絡することなく、いきなり控訴棄却決定を言い渡しました。
この経緯からすれば、控訴棄却の理由は控訴趣意書が提出されなかったこととするのは、事実に即していないことが分かります。

Q5.高裁で公判が開かれなかったことの批判の対象となるべきは、戦略を誤った弁護人ではないか?

本会は、前述の事実経過に鑑みれば、控訴審弁護人の責任で公判が行われなかったとは考えていません。さらに、仮に弁護人の責任であったとしても、それと本会が求める、麻原に治療を施し、真実を話させることには影響を及ぼしません。
ちなみに一審弁護団が精神鑑定を提案しなかった理由は、

  1. 精神鑑定をすると、審理の中心が事案の解明ではなく犯行時の責任能力の有無になってしまう。
  2. 精神鑑定を求めることで、弁護団への世間やメディアの批判が強くなる(保身というよりも裁判が不利になると考えた)。
  3. 弁護側からの精神鑑定は、依頼者である被告人に対して「あなたは精神疾患の可能性がある」と弁護側が言い始めることになるので信頼関係破壊のリスクが高い。
  4. しかし麻原との意思疎通がほとんどできなくなって安田好宏主任弁護人が審議中の1998年12月に突然逮捕されたこと(紙幅の関係で詳しくは触れられませんが、明らかに冤罪でした)による弁護方針の混乱。

などが挙げられます。

Q6.「治療」によって麻原が自発的に真実をしゃべるとは考えられないのではないか?

控訴審弁護人が求めたように、治療した上で控訴審を開いていれば、何らかの事実が語られた可能性は十分にあります。破防法弁明手続時には自分の意見を述べていましたし、一審が始まった段階で、弁護人と意思疎通が図ることができていた頃は、麻原は意見を述べたがっていたからです。
確かに治療によってどこまで回復するかの見通しは決して高くはないけれど、「たぶん無理だ」「おそらくしゃべらない」などの理由で手続きを省略することは、デュープロセス(法に基づく適正手続き)を不可欠の要素とする近代法治国家では考えられません。そして裁判でそのデュープロセスを欠くことは、事件の真相究明の機会を奪うことになります。

Q7.事件を指示した時の内心について語っていないのは、裁判所や病気のせいでなく、麻原本人が語る機会があったにも関わらず語らなかったのではないか?

その可能性はもちろんあります。でも再度書きますが、可能性で手続きを省略するなどありえないことです。もちろん、この段階で詐病の可能性もあったわけですが、ならばなおのこと、精神鑑定を実施して演技はやめろと言い渡すべきでした。
法廷で麻原はどんな言動をしていたのか。裁判が始まって間もない時期、1997年4月24日の麻原の意見陳述の一部を以下に貼りつけます。なおハナゾノヨウイチとの名前を持つ特別陪審員は実在しません、そもそも日本の裁判に、特別陪審員というポジションはありません。

(麻原) ……これに関して、検察庁は2カ月であるとし、ハナゾノヨウイチ特別陪審員だけは無罪を主張しましたが、1996年12月23日に釈放を決め、釈放命令が出ています。これは高弟である吉岡君が受け取り、日本のマスコミはすでに報道していたはずなのですが、日本がなくなってしまって残念です。
このような話を本日、エンタープライズのような原子力艦空母の上で行なうのは、うれしいというか悲しいというか、複雑な気分であります。今、裁判長であられる方、質問があれば受け付けます。どうぞ。2カ月であれ、1年であれ、釈放されているのです。刑事勾留は算入されることになっていますから、半年から1年オーバーしているわけです。ティローパの声が聞こえたが、ティローパは殺人はしていないんだよ。ティローパ正悟師も判決は2年ですから、釈放になっているはずです。
釈放であるというのは……
(裁判長) ちょっと、聞きなさい。11事件について、あなた先ほど何度かナガハマ、ナガハマって言ってましたけど、これは浜口事件の間違いですよね。他のと見比べても該当するのは、浜口しかない……。
(麻原) ん? 浜口。浜口? いえ、これはナガハマ事件だと記憶しています。長浜だと思ってるんですが。ナガハマラーメンなどというのは聞いていません。長浜だと私は記憶しています。
(弁護人) ちょっと聞きたいんですが、今の話では、もうすでに検察は無罪、裁判所も無罪を出している、そしてある裁判では間違った、と?
(麻原) 私が言っているのは無罪ということではなく、傷害事件の1年は、裁判所は1年の刑事勾留はすでに過ぎており、1996年12月23日に釈放と言っているのです。ハナゾノヨウイチ裁判長が――Youichi Hanazono… That time after…
(弁護人) じゃあ、あなたの裁判は一体どうなったんですかっ!
(麻原) もう第3次世界大戦は終わってますから、第3次世界大戦はすでに始まっており、日本はもうありませんから、自由であり、本当は子供たちと一緒に生活できるんだよ。ですから、昨日も坂本堤さんのお母さんと、都子さんのお母さんと話しまして、「もう日本はなくなっていて住むことができないから、ここで生活しないといけない」ということを話したわけです。

こうした言動を続ける(そして途中からはほぼ黙り込んだ)男を被告席に座らせ続けた理由は何か。麻原憎し、のあまり、本来なら行われるべきこと、問題視されるべきことが見過ごされたのではないか。
本会はその視点に立ち、事件の真相を語らせるためにも、麻原の治療を要求します。

Q8.1996年10月18日の第13回公判では、自分に不利となると判断して証人として出廷した井上の証言をやめさせようとして、反対尋問の中止を求めたのではないか?

この第13回公判の前月、検察側証人として出廷した井上は、麻原の謀議参加を裏付ける証言(リムジン謀議)をすでに行っています。その証言に反証することは、麻原弁護団としては極めて重要です。ところが麻原は、自分の弁護団による(井上に対する)反対尋問を中止することを求めました。これは、麻原本人の不利益であって、利益はまったくありません。ところが、麻原は法廷を有利に進めようとして井上の証言をやめさせた、と思い込んでいる人がとても多いようです。自分に有利にするための反対尋問の中止を求めること自体、当時の麻原の精神状態が異常であったことを物語っているのではないかと考えています。

Q9.法廷での不規則発言は、耳に入れたくない弟子たちの証言をやめさせるために、審理を妨害しようとしたものではないか?

拘置所の記録によると、1996年11月頃から、麻原は拘置所職員との会話がなり立たない状態になり、入浴を職員が介助するようになり、1997年7月以降は房内で独語を繰り返すようになり、2001年3月には失禁するようになったためオムツをつけるようになり、2002年2月頃からは自分で布団も敷けなくなり職員がしくようになっています。

法廷で麻原は、不規則発言と呼ばれている発言を行っていますが(先に挙げた意見陳述などが典型)、ある時期から居眠りしたような状態となって行わなくなりました。麻原が正常で、妨害目的で不規則発言を行っていたのであれば、その後も継続して不規則発言を行うはずです。不利な証言をする証人はその後もおり、不規則発言をやめる理由がないのにやめたということは、不規則発言を行っていた原因が、妨害ではなく別にあったと考えられます。

Q10.1997年4月24日の第34回公判で、起訴された17件について自身の意見を述べたのではないか?

既にこの時点で見当識が失われているのではないかという言動をしており、客観的に見れば精神に異常を来している可能性が高かったと言えます。しかし、誰も病気だとは言わず、麻原の人間性の問題にしたため、治療されず、真相が解明されませんでした。

Q11.再発防止のためには、教祖ではなく、信者や追随者が、信者たちがいかにして教団に引き寄せられ、どのようにして心を支配されたかに注目するだけで十分ではないか?

信者の視点も大切だと思いますが、それではバランスを欠きます。信者の証言によれば、麻原の指示であったとされていますが、その動機と、これを形成するに至った原因は、麻原にしか分かりません。再発防止のためには事件全体を解明する必要があります。そして、事件の核心となるものは動機であり、その動機の解明は必須であると考えているため、麻原を治療して語らせるべきだと、本会は主張しています。

また、マインドコントロール的な手法では殺人を行わせることはできないことが、ベトナム戦争のときの米軍の研究ではっきりしています。呼びかけ人の一人の宮台真司は、記者会見で、意図的にアンカーを埋め込み、教祖の言うことを忖度しなかった場合には何らかの強い不安が生じるような手法を麻原が取っていた可能性があることに言及しましたが、そういったことを麻原がしていても弟子は分かりません。どのような技法で、何を目的として弟子をコントロールしたのかについて明らかにすることも、事件のメカニズム解明と再発防止のために極めて重要であると考えます。

Q12.「再発防止」のために死刑回避の対象は教祖である麻原ではなく、弟子たちであるべきではないか?

本会の主張は、麻原を治療して裁判をやり直し、麻原の口から真実を語らせるべきだというものであり、麻原の死刑回避ではありません。適正手続きを求めています。

Q13.真相究明の会の活動は、オウムの後継教団の勧誘活動や信者の結束力を高めるのに利用されるのではないか?

麻原の口から真相を話させることは、麻原の考えていたこと、行っていたことの実態を明らかにすることであり、現実をオウムの後継団体や信者に認識させることにつながると思います。逆に、このまま麻原に何も語らせないことは、「国家が適正手続に違反してまで尊師を死刑にした」という思いを強めることになり、逆効果だと考えます。

Q14.オウム事件真相究明の会の目的は何なのか

本会の骨子は、麻原の訴訟能力の有無の判定を含め、麻原裁判の適正手続を訴えることです。

最終的な目的は麻原を治療した上での再審理ですが、現状の大きな問題は、10年以上誰も面会ができていないことであり、
まずは麻原の現状を確認することが必要だと考えています。

※本会の目的は、刑の是非を問うものではありません。
※何をもって真相究明、あるいは再発防止とするかは呼びかけ人、賛同人個々に見解は異なる部分もあります。

Q15.目的の達成に向けて、今後、会としてどんな活動をするのか

1)一連の麻原裁判が適正な手続よって行われたかどうかの事実確認を行い
2)1の事実に基づいて、適正ではないと思われる部分について、何が問題なのかを社会にわかりやすく伝えていく
3)その上で、弁護団・家族の面会や診断書による麻原の現状の確認と、治療した上での再審理を求め
4)本会の目的に対して署名などでご賛同の声をいただき
5)国に対して嘆願書を提出するなどして訴えていく

以上が、本会が目的達成のために検討している活動です。